不意に現れてくる言葉・風景・におい。
遠い日に忘れたはずの記憶。

そう言えばあったねそんなこと。
あの子のピアスはブルーで、あの人は寒そうに首をすくめてた。
笑い転げたソファは黄色だった。灰皿は端っこが欠けていた。

そんなこと覚えてたなんて。

記憶が完全に消滅することは、きっとない。
忘れたいと願ったものは、忘れたことすら忘れたものは、
その記憶への道順を記した地図を切り刻んだだけ。
例え地図がなくったって、それは密やかに残っている。
いつもの道を外れ、ふと迷い込んだらそれはもう目の前。
消え失せたのは地図だけなのだから。

彼は、きっと忘れない。
きっと何度も地図を作り直していく。

これは例えば、そんな他人の記憶の話。

他人の記憶を、嘘を、想いを、のぞきに来て下さい。



Text by キドキミコ